レイシャルハラスメントとは 定義と対策について弁護士が解説

レイシャルハラスメント

年々、日本で働く外国人が増加傾向にある中で、少しずつ注目を集めているのが「レイシャルハラスメント(racial harassment)」というハラスメントです。

レイシャルハラスメントを一言で説明すると、人種や国籍を理由とした嫌がらせのことを指します。

日本人従業員に対するハラスメント対策は、ここ数年でずいぶん進歩してきたように思います。2022年4月からは、中小企業においてもパワハラ防止法(改正・労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)が適用され、パワハラ防止措置の義務化が始まりました。

外国人労働者が増加すれば、このような従来のハラスメント対策だけでなく、レイシャルハラスメントへの対策も必要になってきます。

パワハラやセクハラよりも一般の認知度が低く、無意識のうちにレイシャルハラスメントをしてしまう方もおられるため、定義や対策についていち早く把握することが重要です。

この記事ではレイシャルハラスメントの定義や対策についてお伝えします。

外国人住民調査報告書の背景と現状

平成29年に、法務省から委託を受けた公益財団法人が、「外国人民調査報告書」というものを作成しています。

この報告書は、今後の日本における外国人にかかわる人権擁護施策の基礎資料とすることを目的に、実際に在留外国人がどのような人権問題に直面しているかを把握するために実施・作成されました。

というのも、近年、外国人労働者や移住者が増え、外国人との共生社会の実現に向けた環境整備が求められている一方で、ヘイトスピーチやデモなどが依然として行われているのが現状です。

地域社会においても、文化の違いが原因だったり、言葉の壁があったりと、外国人を取り巻く環境には様々な人権問題があるのです。

この調査の中でも特に注目したいのが、「過去5年の間に、日本で仕事を探したり、働いたりしたときの経験」

という項目です。

過去5年間に日本で仕事を探したり、働いたりした経験がある人は、2,788人で、そのうちに就労について受けた差別について下記に当てはまる人の割合を調査しました。

・外国人であることを理由に就職を断られた:25%

・同じ仕事をしているのに、賃金が日本人より低かった:19.6%

・外国人であることを理由に、昇進できないという不利益を受けた:17.1%

・勤務時間や休暇日数などの労働条件が日本人より悪かった:12.8%

上記の結果を見てもらうとわかるように、日本での就労に関して、外国人が差別的な扱いを受けた事例は決して少ない割合ではないのです。

これらの扱いは、レイシャルハラスメントにあたる可能性が非常に高いです。

レイシャルハラスメントの3つの定義

レイシャルハラスメントには、具体的に3つ定義があります。

・特定の人種や民族、国籍(外国人やハーフの方)を理由に、暴言や侮辱をしたり、嫌がらせをすること

・特段の合理性がないまま日本人と外国人を分けて業務を進めたり、評価をしたりすること

・上司から部下へ行うだけでなく、部下から上司や同僚同士など色々な関係性のなかで起こる可能性がある

このように、外国人やハーフであるということだけを理由に、差別や嫌がらせをすることを一般的にレイシャルハラスメントと呼びます。

レイシャルハラスメントの特徴として、無意識に行われていることが多い点が挙げられます。

「海外には人種差別があるけれど、日本にはない」と思っておられる方が多いのですが、実際には自分自身の差別行為に気づけないほど日常生活に溶け込んでしまっているのが現状です。

レイシャルハラスメントに係る法律上の根拠

労働基準法第3条には、

「使用者は労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取り扱いをしてはならない」

と明記されています。

このように、外国人が日本国内の企業で働くときには、国籍に関わらず差別的な扱いをするときは認められません。

外国人が日本で働く場合、原則として日本人と同様に労働関係法令が適用されます。労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等が具体的に適用される法令です。

違反した場合には、日本人のケースと同じように罰則が適用されますので、外国人を雇用する企業は十分な注意を払わなくてはなりません。

具体的な事例

レイシャルハラスメント、といっても少しイメージが湧きづらいかもしれません。そこで、具体的な例をあげてみると、

・出身国やその文化を侮辱する: 「○○人って、いつも□□を食べているよね」

・外見や文化的な特徴をからかう:「名前が変で覚えられないよ」

・国籍や外見だけで語学や仕事ができるかを判断する:「ハーフなのに英語を話せないの?」

・外国人であることを理由に待遇を変える:「○○人だから日本人より△円時給が安いんだよ」

などがあります。

あくまでこれらは一例で、他にも様々なレイシャルハラスメントがあります。

いずれも本人の能力や性格などの要素ではなく、「外国人である」という要素だけを理由に不適切な言動をしています。

多様なルーツを持つ人達と働いていることを意識し、相手のプライバシーを十分に尊重する姿勢が重要です。

企業が取るべき対策

企業が取るべきレイシャルハラスメント対策としては、

1 就業規則の整備

2 研修の実施

3 ハラスメント窓口の設置

などが考えられます。

こちらは、パワハラ防止法における「労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置(参考:厚労省WEBサイト)」ですが、

パワハラやセクハラと同様に、レイシャルハラスメントにも通ずると考えられます。

1 就業規則の整備

まず、ハラスメントに対する事業主の方針を明確にし、その方針を従業員に周知・啓発することが必要となります。

その手段の一つとして、就業規則等にハラスメントに関する規定を設け、変更があったことを従業員に周知する方法があります。

その他、社内誌や社内報などを活用して、ハラスメントに対する会社の方針を明示することも有効です。

(参照:外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針

2 研修の実施

日本におけるレイシャルハラスメントは、本人が無意識のうちに言動をしているケースが多いことが特徴です。そのため、各人の意識を変えるためにも、研修や勉強会を実施することも有効です。

研修では、レイシャルハラスメントについて

・何がだめなのか

・何故だめなのか

・もし発生した場合、どうすればよいのか

などについて、わかりやすく周知、啓発することが重要です。

自社内での実施が難しいとのことでしたら、弁護士など法律の専門家が研修を行うことも可能ですので、どうぞお気軽にご相談ください。

(参照:外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針 三 安全衛生の確保

3 ハラスメント窓口の設置

パワハラ防止法では、企業に対してハラスメントの相談窓口の設置を義務付けています。

相談対応の担当者を予め定める、あるいは外部の機関に相談対応を委託して、適切な相談窓口の運用ができるよう制度を作らなくてはなりません。

また、その窓口を設置したことを従業員に周知して、問題が起こったときにすぐ相談できる体制を整える必要があります。

レイシャルハラスメントが発生したときの対応

実際にレイシャルハラスメントが発生した場合、企業はどのような対応をすべきでしょうか。レイシャルハラスメントに限らず、自社内でハラスメントが発生した場合の対応のおおまかな流れとしては、

1 調査を実施する

2 人事対応を行う

3 懲戒処分を行う

となります。それぞれについて、説明します。

1 調査を実施する

自社でハラスメントが発生した場合は行為者と被害者の双方からヒアリングを実施することが重要です。被害者が主張する加害者の具体的な言動や、時期、経緯について確認をします。

もし行為者が否定をするのであれば、第三者へのヒアリングや裏付け証拠(メールや音声記録等)の検討もする必要が出てきます。

また、調査において尽力しなければならないのが、被害者への最大限の配慮です。調査によって被害者が不利益を被ることがないよう、ヒアリング等を進めます。

調査過程は、発覚から現在までの全てを保存しておくことをおすすめします。

2 人事対応

調査の結果ハラスメントの事実が認められた場合は、人事対応を実施します。

当事者の配置転換を行う場合は、原則として加害者側を配置転換した方が良い場合が多いです。

被害者への対応としては、調査結果を報告し、加害者による謝罪に関して被害者の意向を確認します。もし、ハラスメントによって被害者に労働条件上の不利益があれば、それを回復します。

その後、社内に対してハラスメントに対する自社の方針を周知徹底し、認識の改善が必要であると判断した場合は研修や勉強会などを執り行います。

社外に対しては、労働局へ当該事例を説明し、従来自社でどのようなハラスメント対策に取り組んでいたかをも説明します。

3 懲戒処分

就業規則の懲戒事由を確認し、処分内容の決定を行います。

前提として、就業規則のハラスメントに関する規定が社内で周知されているかも確認しておきます。もし、ハラスメントに関する規定がなければ一般条項についても検討します。

書面等による注意指導に留めるか、懲戒処分を実施するのか、実施するとして、その程度や種類はどうするかを決定します。

この処分については、ハラスメントの類型や頻度などに応じて量刑の判断をするのが一般的です。弁護士にご相談いただければ、法的観点のもと適切な対応についてアドバイスが可能です。

レイシャルハラスメントの対策は弁護士へご相談ください

レイシャルハラスメントに関して、パワハラやセクハラのように企業に対策が求められるようになると考えられます。

外国人従業員がいる企業様では、既に問題が発生していることもあるかもしれません。

レイシャルハラスメントの対策をお考えであれば、ぜひ弁護士法人iへご相談ください。弊所では、

・ハラスメント診断

・ハラスメント相談窓口の設置

をお手伝いすることが可能です。

御社の就業規則及びハラスメント規定の内容を弁護士がチェックいたします。「各種ハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(厚生労働省告示)に適合するかを確認し、アドバイスを差し上げます。

また、外部にハラスメント相談窓口のご相談もお受けしております。上記指針では、相談窓口について、

・相談に対する担当者をあらかじめ定めること

・相談に対応するための制度を設けること

・外部の期間に相談の対応を委託すること

を求めていますが、会社ごとに状況や事情は異なるため、どうすれば最適な窓口設置の制度となるかは判然としません。

弁護士にご相談いただければ、御社の状況をうかがい、最適な相談窓口制度をご提案いたします。

これらのサービスに関しては、レイシャルハラスメントを対象としたものだけでなく、パワハラやセクハラ、マタハラなどその他のハラスメントも対象です。

ハラスメント対策はこれからも企業の必須項目として、日々アップデートしていくことが求められると考えられます。

ぜひ一度専門家にご相談ください。

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