他社雇用の外国人を受け入れる場合
入管法違反をしていないか配慮しなくてはならないのは、自社で外国人を雇用する場合だけではありません。
他社で雇用された外国人を受け入れる場合にも注意しなくてはならないのです。
他社で雇用された外国人なら、雇用先である他社がチェックしているから、自社がすることなんて無いだろう、と考える方が多いかと思います。
実は、そこに大きな落とし穴があるのです。
本記事では、他の企業から外国人労働者を受け入れる場合に気をつけなければならないことについてお伝えします。
具体的には、
◯よくある誤解
◯派遣社員が外国人の場合
◯業務委託先の従業員が外国人の場合
◯外国企業で働く外国人が「短期滞在」ビザで業務を行う場合
についてそれぞれ詳しく説明します。
よくある誤解
外国人雇用について、非常に多い誤解として、
「他社が雇用している外国人を自社で受け入れる場合は、自社については入管法上の規制を受けない」
というものがあります。
実際には、他社から外国人を受け入れる場合であっても、入管法の規制がかかります。
場合によっては、自社で直接外国人を雇用する場合よりも、さらに慎重なチェックが求められるのです。
派遣契約で受け入れる場合
他社との派遣契約に基づいて外国人労働者を自社に受け入れる場合は、まず第一に派遣元会社が労働者派遣法上の許可を取得していることが前提となります。
それに加えて、自社で行う業務が、外国人が持つ在留資格で認められている活動かどうかを十分確認しなくてはなりません。
派遣元と派遣先のチェックが不十分であったために、外国人に在留資格に見合わない業務をさせた場合、外国人本人が資格外活動罪に問われるだけでなく、派遣先事業主等に不法就労助長罪や資格外活動幇助罪が成立する可能性があります。
派遣元の許認可
外国人が派遣の形態で働く場合、入国管理局は在留資格該当性(※)について、派遣元企業の業務内容ではなく、派遣先での業務内容によって判断しなければなりません。
※在留資格該当性…外国人が行おうとする活動が、入管法別表に記載された在留資格ごとに定められた活動に当てはまること
派遣元会社が、派遣予定先の業務内容に基づいて、雇用する外国人の在留資格を申請していれば、当該外国人は問題なく派遣先企業で働けます。
しかし、派遣予定先について、実際の派遣先とは違う企業を記載して申請したり、派遣先での実際の業務内容とは違う内容を記載して申請したりした場合、仮に在留資格が付与されていたとしても、後から取り消される可能性があります。
よって、外国人派遣従業員を受け入れる場合は、その外国人の在留資格申請にあたり、派遣元会社がどのような内容で申請し、どのような許可が得られているのかについてまですり合わせをしておくことが理想的です。
「直接外国人を雇用するのは派遣元会社だから、うちは関係ない」と考えて派遣元会社に全て任せてしまうのは危険な考え方なのです。
また、在留資格取得について、派遣先の雇用条件等を提出していることが通常です。派遣先が変更になっている場合には(外国人が派遣されて働くのが、自社が2社目以降であれば)、就労資格証明書を取得しましょう。
ただし、労働者派遣事業制度により、派遣元が派遣先に提供できる派遣社員の個人情報には限りがあります。
具体的には、派遣法第35条第1項の規定により派遣先に通知すべき事項(※)と、派遣社員本人の業務遂行能力に関する情報に限られています。
※派遣法に基づく通知事項の内容
・派遣労働者の氏名
・性別(45歳以上・18歳未満は年齢情報も)
・健保/厚年/雇保の資格取得状況
以上の法令に基づく情報以外は、本人の同意を得てから取得するようにします。また、取得した情報は、特定した利用目的以外で使用すべきではありません。
業務委託先の従業員が外国人の場合
直接雇用していない外国人が自社で働く場合は、派遣従業員だけに限りません。
他社と業務委託契約を締結し、その業務委託先が雇用する外国人を自社で受け入れる可能性も考えられます。
このような場合においても、入管法による規制は適用されます。
よって、受託社が雇用した外国人が保有する在留資格が、委託企業の業務内容と合致していない場合、直接雇用している受託企業だけでなく、委託企業までもが、不法就労助長罪に問われる可能性があります。
というのも、これまでの裁判例を見てみると、不法就労を「させた者」についてはかなり広く解釈される傾向にあるのがわかります。
受入先企業は、直接外国人を雇用しているわけではありませんが、外国人が働く現場では事実上優位な立場にあります。この立場を利用して、外国人に在留資格許可範囲を超えた指示をしたと認定されれば、不法就労助長が認められるのです。
不法就労助長罪は、受入先企業の事業主だけでなく、実際に指示を出した受入先従業員にも適用される可能性があります。
外国人個人と業務委託契約をする場合
企業が外国人個人と業務委託契約を締結する場合も、入管法の規制は適用されます。
外国人個人との業務委託契約というと、たとえば企業が外国人個人に対して翻訳業務やデザイン業務を委託するケースが考えられます。
業務委託をする前には、当該外国人が保有する在留資格や、資格外活動許可の内容をチェックする必要があります。
特に、「留学」や「家族滞在」の在留資格を持っている外国人に付与される資格外活動の許可は、原則週28時間以内の就労にかぎられています。
この週28時間という数字は、1社ごとではなく、全ての就労先での勤務時間を合わせたものです。
よって、もし外国人が2つの企業で働いている場合、1社ごとに週28時間の終了許可が出ているわけではなく、2社で合わせて週28時間という許可が出ていることとなります。
週の活動時間が28時間を超えた場合、資格外活動罪が成立してしまいます。
また、外国人が就労した企業が勤務時間を把握していたにも関わらず、28時間以上の就労をさせた場合は、企業側に資格外活動幇助罪が成立する可能性があります。
資格外活動の許可を得た外国人個人と業務委託契約を結ぶ場合は、資格外活動になってしまわないよう、細心の注意を払わなくてはなりません。
外国企業の外国人が「短期滞在」ビザで業務を行う場合
「短期滞在」という在留資格は、「①本邦に短期間滞在して行う②観光、保養、スポーツ、親族の訪問、見学、講習又は会合への参加、業務連絡その他これらに類似する活動」を理由に来日する外国人に付与されるものです。
「短期滞在」は、就労できない資格にあたります。資格外活動の許可を得ずに、「収入を伴う事業を運営する活動または報酬を受ける活動」を行うことはできません(入管法19条1項2号)。
もし、報酬を得る就労活動をした場合は、就労した本人に資格外活動罪が成立します。そして、本人を働かせた事業者には不法就労助長罪(入管法73条の2)が成立します。
しかし、日本で働く外国人の中には、外国の企業に務めており、ごく短期間だけ日本で仕事をするという人もいます。
そういう方は、「技術・人文知識・国際業務」や「企業内転勤」など、一定範囲で就労可能な在留資格を取ることもありますが、あまりに滞在時間が短い場合はわざわざ在留資格の申請をするのも大変です。
このようなケースでは、外国人が日本で行う活動が「短期滞在」でも適法となる範囲のものなのか、「技術・人文知識・国際業務」や「企業内転勤」の在留資格が必要となるのかを、正しく見極めることが非常に重要になります。
その判断の重要なポイントは、日本で行う活動が「収入を伴う事業を運営する活動または報酬を受ける活動」にあたるかどうかです。
実際にどのような点に着目して考えればよいか、詳しく説明します。
「報酬を受ける活動」とは
外国人による役務提供が日本国内で行われ、その対価として給付を受ける場合には、対価を支払う機関が日本国内にあるかどうかに関わらず、日本国内で対価を支払うかどうかに関わらず、「報酬を受ける活動」となります。
しかし、日本国外で行われる主たる業務に付随する活動を、短期間日本国内で行う場合は、日本国外の機関が対価を支払う場合に限り「報酬を受ける活動」とはなりません。
具体例
・日本国内で行われる会議等のために日本に短期間滞在する場合
・日本へ輸出販売した物品のアフターサービス(設置やメンテナンスなど)のため滞在する場合
以上のように、外国企業に務める外国人が「短期滞在」の在留資格に基づいて日本に滞在する場合は、日本で行う業務が、日本国外で行われる主たる業務に関連し、従たる業務を短期間日本国内で行うことが必要な条件となります。
収入を伴う事業を運営する活動 とは
「収入を伴う事業を運営する活動」(入管法19条1項2号)についても、解釈の仕方は上記「報酬を受ける活動」と同様です。
金銭のやり取りを行う事業を日本国内で行っている場合などが、このケースに当てはまります。
ただし、日本国外で主に業務に従事している者が、特別な事情により日本国内で短期間活動する場合は当てはまらず、「短期滞在」の在留中の活動として適法です。
具体例
・海外にある親会社の役員が、日本にある子会社の役員も兼ねており、大事な商談で短期間日本に滞在する場合
・海外にある会社の従業員が、日本子会社などでの採用者と懇親会をしたり、技術的指導をする場合
「短期間」 とは
たとえ、一回の商用での滞在が短期間であったとしても、長い目で見たときに日本に滞在する割合が相当程度あるのなら、「短期滞在」には当たらないと判断されることがあります。
特に多いのが、入国する際にビザを必要しない国である「査証免除国」の外国人が、「短期滞在」での日本への入国を繰り返し、実際には「報酬を受ける活動」を何度も行っていたというケースです。このケースは違法です。
短期間での来日を繰り返して就労活動を続けていた場合、入国審査時に審査官より就労目的の入国であると判断される可能性があります。
入国審査で不法就労を指摘されると、上陸許可申請の取り下げ勧告や退去命令(入管法11条6項)を受けたりするリスクがあるので注意が必要です。
また、短期滞在を繰り返して就労していた外国人本人だけでなく、働かせていたと判断された日本企業も、今後の申請などで不利になることがあります。
※退去命令は、「退去強制」とは異なります。しかし、入国管理局のデータに退去命令を出された事実が残り、今後の入国に支障が出る可能性があります。
外国人労務にお悩みの方は弊事務所までご相談ください
ここまでご案内した通り、自社で直接雇用した外国人だけでなく、派遣契約や業務委託契約で自社に受け入れる外国人にも、入管法の規制は適用されます。
直接雇用していないから大丈夫だろうとたかをくくっていると、不法就労助長で摘発される恐れがあるのです。
実際に、外国人に不法就労をさせた派遣会社と、派遣先企業両方が処罰を受けたケースもあります。
トラブルが起こってしまうより早く、正確な知識を持つ専門家に相談することが重要です。
また、専門家といっても、全ての弁護士が入管法に詳しいわけではありません。
むしろ、外国人労務に関しては、知識や経験が豊富な弁護士の方が少ないのです。
弊事務所には、外国人労務に関する実績がございます。
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