技能実習生を雇用する企業が法令違反をしたら?行政処分の流れ

法令違反をした場合の行政処分

技能実習生を受け入れている実習実施者が法令違反をすると、技能実習法上では、行政処分がなされる可能性があります。

行政処分の内容としては、改善命令や実習認定の取り消しなど、実習実施者にとって大きなダメージとなり得るものが多いです。

行政処分を受けないためにも、関連法令をきちんと理解し、遵守する必要があります。

本記事では、

・実地検査

・改善命令

・実習認定取り消し

・改善勧告/改善指導

について解説します。

実地検査および報告徴収

技能実習に関する実地検査は、

 

・主務大臣が行うもの

・機構が行うもの

 

の2種類があります。

 

主務大臣が行うもの

技能実習法13条1項には、

 

「主務大臣は、技能実習計画の規定を施行するために必要な限度において、実習実施者や監理団体等に対して、報告または帳簿書類の提出・提示または出頭を求めたり、当該主務大臣の職員に質問・立入り検査をさせることができる」

 

といった内容が記載されています。

 

主務大臣が行う報告徴収などを拒んだり虚偽の回答をしたりしたら、最悪の場合、技能実習計画の認定が取り消される可能性があります。

その他、30万円以下の罰金が求められるなど、罰則の対象にもなります。

 

機構が行うもの

主務大臣は、必要な限度において、下記の事務を機構に任せることができます(技能実習法14条1項)。

 

・実習実施者や監理団体などに対して、必要な報告・帳簿書類の提出や提示を求める事務

・機構の職員が関係者に質問したり、実習実施者や監理団体等に対して設備/帳簿書類/物件などを検査したりする事務

 

機構がおこなう実地検査等については、虚偽の回答をするなど一定の場合に、技能実習計画の認定が取り消されます(技能実習法16条1項5号)。

主務大臣によるものと異なり、機構による検査等を拒否したり、妨害したりしたことのみでは認定の取消事由には当てはまりません。

 

ただし、調査への協力が得られない場合は、技能実習計画が認定されないこともあります。

 

このような実地検査は、監理団体に対して1年に1回程度、実習実施者に対して3年に1回程度を目処に定期的に行われます。(運用要領P309)

機構が行う検査には協力し、自分たちが実施する技能実習が適正であると明らかにするよう努めなくてはなりません。

 

実地検査において、法令違反等の事実が発見された場合には、機構が文書にて指導を行い、対象機関に改善を求めます。

また、実地検査において重大な法令違反の事実が発見された場合には、その情報は後の改善命令や実習計画認定の取消等の行政処分における重要な資料となります。

 

※機構による実地検査の2つの種類

 

機構による実地検査には、

・一定の期間ごとに行う定期検査

・実習生による申告をきっかけに行う臨時検査

の2種類があります。

 

臨時検査において、技能実習法違反を申告した実習生に対して、申告したことを理由に不利な状況に追いやることは禁止されています(技能実習法49条1項)。

 

改善命令

 

改善命令とは

改善命令とは、主務大臣が、

 

・技能実習計画にのっとった実習を実習実施者が行っていないと判断したとき

・関連法令(技能実習法/労働法/入管法など)に違反しており、適正な実習実施の確保が必要だと判断したとき

 

に発することができるものです(技能実習法15条1項)。

 

改善命令が発せられるかどうかや、実習認定が取消されるかどうかは、その案件の違法行為の状態や悪質性を元に判断されます。

 

改善命令は、法令違反に対する是正を求めるだけでなく、法令違反の原因となった実習実施者の管理体制や運営そのものについて改善することを目的として発せられます。

違反内容のみを改善すればよい、というものではないので注意してください。

主務大臣は、期間を定めて問題を改善するよう実習実施者に求めます。よって、期間内に法令違反となった事項を改善し、さらにその原因となった管理体制や運営をも改善しなくてはなりません。

 

改善命令に従わない、あるいは対応策が適切でないと主務大臣が判断した場合は、技能実習計画の認定取消事由となります(技能実習法16条1項6号)。

さらに、改善命令に従わないことは罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)の対象ともなります(技能実習法111条1号)。

そして、改善命令を受けた実習実施者は、その旨を公示されます(技能実習法15条2項)。行政処分を受けた企業として公の場に示されることは、企業にとって大きな不利益となります。

企業ブランドに傷をつけないためにも、改善命令を受けることのないように、法令を遵守した技能実習の実施が求められるのです。

 

改善命令を受けたときに取るべき対応

万が一改善命令を受けたときは、提示された改善期限までに、問題解決のための措置を取らなくてはなりません。

指摘された問題が改善するだけではなく、今後法令違反を起こさないような管理体制や運営がブラッシュアップされたことを明らかにしなくてはならないのです。

 

改善命令を受けた機関は、行った措置を明らかにするため、「改善命令にかかる改善報告書」を提出することが必要です。

 

もし、一度受けたのと同じ内容で再度改善命令を受けた場合は、技能実習計画の認定の取消よりも厳しい措置の対象となります。

改善命令を受けて問題の改良をしたのであれば、その管理体制や運営方法を維持しなくてはなりません。

 

実習認定の取消

一度認定を受けた実習計画であっても、欠格事由にあてはまる場合は、認定の取消となる可能性があります。

認定が取消されると、その計画にかかる技能実習生に実習を行わせられなくなります。それだけでなく、現在受け入れいている他の実習生についても原則的に受け入れ継続できなくなります。

また、認定の取消を受けた事実が公表されるため、企業のイメージに大きな影響を与えます。

 

そして、認定が取消された日から5年間は新たな技能実習計画の認定が受けられなくなります。

 

実習実施者にとって、計画認定の取消は非常に重いペナルティです。計画の認定が取消された実習生だけでなく、他の実習生や将来的に受け入れる予定だった実習生にまで影響が出るのです。

 

実習計画の認定の取消を受けたときの対応

技能実習計画の認定が取消された場合、原則として、対象となる機関で実習を行う全ての実習生が、実習の継続ができなくなります。

 

そして、技能実習生が他の実習実施者の元に円滑に転籍できるようにしなくてはなりません。

団体監理型の技能実習の場合は、実習監理をする監理団体に協力してもらって、転籍手続きを進める必要があります。

 

改善勧告・改善指導

 

改善勧告・改善指導とは

機構が実地検査を行い、技能実習法に関する法令違反を確認した場合は、

 

・法令違反の対象条項

・勧告事項

・是正期限

 

が記載された改善勧告書を交付します。その後、勧告書の内容の説明があり、記載された措置を実効するよう指導を行います。

改善勧告書には正式な書式はありませんが、以下のような書面をイメージしていただければと思います。

改善勧告書のイメージ図

 

改善勧告書の交付の際には、

 

・是正期限までに改善のための措置等を行わない場合には、行政処分等の対象となることがある

・行政処分等を受けると欠格事由に該当する可能性があり、今後5年間認定あるいは許可を受けられなくなる場合がある

 

といった説明があわせて行われます。

 

また、技能実習法に違反していない事例でも、技能実習の適正な実施や技能実習生の保護の観点から、一定の措置が必要だと判断された場合は、

 

・指導事項

・是正期限

 

が記載された「改善指導書」が交付されます。交付時に内容の説明があり、指導書に記載された措置を実効するよう指導があります。

改善指導書にも正式な書式はありませんが、以下のような書面をイメージしてください。

改善指導書のイメージ図

 

※技能実習法以外の法令違反があった場合

機構による実地検査で、技能実習法以外の法令違反(入管法、労基法など)があった場合の説明をします。

この場合、機構は検査対象機関に対して、技能実習生手帳を用いて違反した法令の説明を行います。

説明を通じて、対象期間が当該法令に対する正しい理解ができるように努めるのです。また、検査対象機関に不足していると思われる情報を提供することもあります。

 

技能実習に関する相談は弊事務所へ

技能実習を行う実習実施者が法令違反をした場合、行政処分がなされる可能性が高いです。

 

行政処分にはいくつか種類がありますが、特に実習計画の認定の取消がなされた場合は、法令違反となった実習だけでなく、その実習実施者が現在受け入れている全ての実習が継続不可能となります。

さらに、今後5年間の実習生受け入れができなくなります。

 

これは、実習生を受け入れている企業にとって大きな痛手となります。さらに、実習認定の取消がなされたことが公表されるため、企業の信頼性にも傷がついてしまいます。

 

そうならないためにも、技能実習制度や外国人雇用に詳しい法律専門家からのアドバイスを受けることが重要です。

 

弊事務所には、外国人雇用の知識や経験が豊富な弁護士が在籍しております。

すでに他の弁護士とつながりがあり、新しい弁護士への相談がためらわれるという方にも、「セカンド・オピニオン」として弊事務所を活用いただくことをおすすめしております。

 

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