不法就労に発展してしまった場合の行政上のペナルティとは?事業別に解説
一般事業会社(受け入れ企業)編|行政上のペナルティへの対応
不法就労助長罪による不利益
例えば、このような経営者の方がいます。
内装業の会社を経営しているが技能実習生も特定技能も技人国ビザの外国人も雇用している。
この度どうも入管が調査しているようだが、どうせ不法就労助長罪で起訴されても実刑にならないからこのまま雇用していくつもりだ。
確かに刑事事件だけを考えると執行猶予により無事猶予期間を経過すれば現実的な不利益は少ないと思われるかもしれませんが、これが大きな間違いで多くの方が誤解している点です。
許認可への影響
許認可を取得する際の「欠格事由」が定められており、これに該当すると許認可を取得できない仕組みです。また、取得後にこの欠格事由に該当した場合、取消事由に該当し、許認可が取り消される仕組みとなります。
建設業法では8条に欠格事由が列挙されており、7号に「禁錮以上の刑に処せられその刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者」と規定されています。有罪判決で禁錮刑か、懲役刑に処せられた場合、仮に執行猶予が付されたとしても「禁錮刑以上の刑に処せられ」た場合に該当します。
法人の場合、禁錮刑以上の刑に処せられることはありませんが、法人の役員または政令で指定する使用人が禁錮刑以上の刑に処せられた場合、その法人について欠格事由に該当することとなります(12号、7号)。
また、欠格事由に該当した場合に許可を取り消されます。個人事業主や、法人の役員や一定の使用人が、不法就労助長罪で有罪判決を受けて禁錮刑以上の刑に処せられた場合、当該個人事業主や法人は、その刑執行終了等から5年間(執行猶予の場合は執行猶予期間の満了までの間)は新規で建設業許可を取得することはできず、 また、取得済みの許可が取り消されるということになります。
HR事業会社(人材紹介・派遣等)編|行政上のペナルティへの対応
不法就労助長罪特有の欠格事由
不法就労助長罪(入管法73条の2第1項)に処せられた場合、罰金刑にとどまっても許認可の欠格事由・取消事由に該当する場合があります。
特有の欠格事由は人材事業の許認可に設けられていることが多いのでHR事業を経営する会社は特に注意が必要です。
例えば、労働者派遣事業の許可です。労働者派遣事業法6条1項1号には欠格事由が定められており、その中には「(略)出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)第73条の2第1項の罪を犯したことにより、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して五年を経過しない者」は労働者派遣事業の許可を受けることができないとされています。
法人に関して、役員に不法就労助長罪で罰金を受けた者がいる場合も同様です(同法6条1項11号)。
許可を持っている会社であれば不法就労助長罪で罰金刑に処せられると取消事由に該当します(労働者派遣事業法14条1項)。
派遣業の免許取消
派遣業の免許取消になり得ること (労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 14条1項1号・同6条1項1号・出入国管理及び難民認定法73条の2 1項) |
有料職業紹介事業の免許取消
有料職業紹介事業免許取消になり得る (職業安定法(昭和22年法律第141号)第32条の9第1項第1号・同32条1項1号・出入国管理及び難民認定法73条の2 1項) |
注意すべき波及するリスク
人材事業会社においては例えば、技能実習法の監理団体(監理支援機関)・特定技能における登録支援機関・有料職業紹介事業・派遣事業すべてをグループで運営している企業群があります。このような事業形態において特に注意すべき点は、入管法を含めた一つの規制法令違反が全部の許認可に影響を与えるということです。
実際の取消事由
取消事例の概要
■労働者派遣事業及び有料の職業紹介事業の許可の取消しを行った事業主 ・名称 ○○商事有限会社 ・代表者職氏名 代表取締役 ○○ ・所在地 東京都豊島区△△△△ ・許可に関する事項 労働者派遣事業 許可年月日 平成18年5月1日 有料の職業紹介事業 許可年月日 平成26年10月1日 ■処分内容 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号。以下「労働者派遣法」という。)第14条第1項第1号及び職業安定法(昭和22年法律第141号)第32条の9第1項第1号の規定に基づき、令和4年3月8日をもって、労働者派遣事業及び有料の職業紹介事業の許可を取り消す。 ■処分理由 ○○商事有限会社は、令和2年12月25日、東京簡易裁判所において、従業員2名と共に、出入国管理及び難民認定法第73条の2第1項の罪を犯したことにより、罰金の刑に処せられ、令和3年1月9日にその刑の執行が終了したことから、労働者派遣法第6条第1号及び職業安定法第32条第1号に規定する欠格事由に該当し、許可の取消が相当であると判断されたため。 |
上記取消事由に関する解説
まず直接の原因となっている入管法第73条の2第1項の罪というのは不法就労助長罪でこれにより罰金刑に処せられたことが原因となっています。注意が必要なのは別に労働者派遣法や職業安定法自体について違法があったわけではありません。にもかかわらず派遣免許も有料職業紹介の免許も剥奪されています。
これが先述したHR事業者にとって脅威となる点です。HR事業者にとって入管法はマストかつ最優先でコンプライアンス遵守体制を構築しなければ全事業を停止せざるを得ないリスクを常に孕むことになります。
もう一点留意すべきは取消の時期です。入管法違反に留意していないと同違反刑事事件が1年ほど係っている内に他の許認可への取消リスクを忘れてしまいがちです。
行政手続きは刑事手続きが先行することが多々あります。これは、刑事罰が確定することが取消の要件となっていることもありますし、そうでなくてもより厳格な刑事手続きを意図的に先行させて事実認定を確定させてから行政罰を処するという場合もあります。
刑事手続きが比較的長期間かかるために許可取消などの対策を忘れてしまいがちですが入管法違反もしくはその疑いがある段階で刑事事件に至る前に直ぐ専門家に相談して行政庁と協議しておけば許可取消までには至らなかったという事案が多々あります。
入管法に違反している、その恐れがあることが発覚したら、ばれなければ良いという発想が一番事業継続に対するリスクが高い対応です。
むしろ、表面化していない段階で改善計画を立てて行政庁と真摯に対応することで事業を継続できる場合も多々あることに留意ください。
HR事業を行う会社で外国人従業員を派遣で派遣先で就労させていたが、当該外国人の在留資格が偽造されていた。もしくは派遣先での就労が在留資格の範囲を逸脱していたということは実際によくあります。典型的には技人国ビザの派遣社員を工場に派遣してもっぱらライン製造に従事させていたような場合です。
派遣事業における派遣先企業への影響
影響①:派遣先企業においても不法就労助長罪が成立
派遣先企業についても無過失を立証できない限り不法就労助長罪が成立するのは先述のとおりです。
また、派遣元は、本来適法に就労できない人材を派遣先に派遣している点において派遣基本契約の債務不履行になることがほとんどです。
このような場合派遣元は派遣先から派遣契約の債務不履行に基づく損害賠償請求をされる余地があります。
影響②:未払い問題
しかし、実際は、上記の不利益よりも真っ先に窮境原因となるのは派遣料金の支払い拒絶です。
実際は、派遣免許取消などの事由があれば、派遣先は派遣料金を犯罪収益に該当するなど理由をつけて支払わないことが多々あります。
こうなると派遣元会社としては、派遣社員に対して賃金を支払うことが困難となります。派遣社員が多ければ多いほど人件費負担は重く、
これに比例して社会保険料、厚生年金保険料など租税公課の支払いも重くのしかかります。
また、派遣会社特有の問題として人材派遣業は、売上が消費税込みで入金される一方で支払の大半は人件費が占めているため、
受取消費税に対して支払消費税が少なくなり、納税額は大きくなる傾向にあります。
この納税負担も派遣料金支払いを止められると資金繰りが一気に苦しくなる一因となります。
実際は派遣料の未払い問題で資金繰りがつかずに敢無く倒産ということもありえます。
技能実習・特定技能雇用会社編|行政上のペナルティへの対応
外国人雇用企業が特に注意すべき罰則
実習実施者・特定技能所属機関は労働安全衛生法違反に要注意
検察官も実習生が関係する労働安全衛生法違反がどのような結果をもたらすかを理解していないこともあります。そのため、検察官の今回は裁判せず罰金で済ませましょうという安易な誘導に乗ってしまうと予期せぬ、より大きな制裁を受けることになります。
入管法上の不利益としては、罰金刑は有罪に違いないので立派な有罪処分であり、「出入国または労働に関する法令に関し不正または著しく不当な行為」(特定技能基準省令2条1項4号リ柱書)刑事罰に該当することで「特定技能」外国人の雇用が出来なくなる可能性があります。特定技能外国人受入不可もしくは受入5年間停止となります(特定技能基準省令2条1項1号 特定技能運用要領 在留資格適合性のうち受入機関適合性を欠くことになり、特定技能外国人・技能実習生全員転籍が必要となります。)。
出入国労働関係法令 社会保険関係法令 租税関係法令の遵守が要件となります。
技能実習法上の不利益としては、刑事罰に該当することで技能実習生の雇用が5年間受け入れ停止となります。(技能実習法10条実習計画の認定欠格事由該当)
すなわち出入国労働関係法令違反罰金刑等課せられてから5年経過(実習法10条7号)しなければ技能実習生を雇用することはできません。また、技能実習計画の認定取消事由に該当すると会社の全技能実習生の転籍支援が必要となります。さらに、取り消しになった企業名の公表がされます(技能実習法16条2項)。
不正が発覚した場合はどうすれば良い?
所属機関として欠格事由に該当する場合にはすべて受入れ停止・外国人の転籍が必須かといえば必ずしもそうではありません。
運用要領によれば「出入国または労働に関する法令に関し不正または著しく不当な行為」があったとしても個別具体的な事案の軽重に応じて所属機関として欠格か否かを判断するとしています。すなわちありのまま不正事実を申告し、不正の経緯、再発防止策の改善計画を詳細に述べ事案の重大性がないという評価から、所属機関として欠格事由に該当しない場合があります。
ただし、過去の不正行為を隠して新たな特定技能外国人や技能実習生の受け入れるためのビザ申請を行った場合には不利益事実の秘匿として、在留資格等不正取得罪(入管法70条1項2号の2)という新たな犯罪を犯してしまうことになります。わからないとおもって申請しても、行政庁が情報を共有していることを忘れずに絶対に虚偽申請をすべきではありません。
少しでも不安があると思ったら弁護士までご相談ください
不法就労は、雇用している側でも不法就労をさせてしまっているという事実に気づきづらい側面がある一方で、行政上のペナルティを受けてしまうと、今後の外国人雇用の継続ができなくなる可能性があるなど、企業にとっても大きなリスクがあります。しかし、外国人雇用に関わる制度や法律は単純ではなく、弁護士の中でもこの分野には全く関与しない弁護士もいて、専門性が求められる分野になります。
外国人雇用に関する事業を行っていたり、外国人を採用している企業の皆様は、一度専門性の高い弁護士に相談し、自社の体制や外国人の働き方などに問題がないか、きちんと確認することをお勧めします。
当事務所では、外国人雇用や不法就労に関する問題を多く取り扱っております。過去にも不法就労に関する対応や改善計画の提案・実行などの実績もございますので、ぜひお気軽にご相談ください。