頻出する技能実習実施者の法令違反
厚生労働省のホームページには、平成31年・令和元年に外国人技能実習実施者に対して、監督指導や送検等を行った状況などが掲載されています。
そのホームページの情報によると、
監督指導を行った実習実施者のうち、71.9%に労働基準関係法令違反が認められた
のです。
現状として、多くの実習実施者が法令違反をしているのです。
本記事では、
・実習実施者が違反する法令とは
・実際にあった事例
・法務省による不正行為告知
について説明します。
本記事で使用する画像は、全て厚生労働省が公表している【別紙】技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(平成31年・令和元年)より抜粋しています。
実習実施者が違反する法令
上記の画像は、実際にあった違反事項を件数順に並べたものです。
実習実施者が違反した法令の違反事項は、
1 労働時間(21.5%)
2 使用する機械等の安全基準(20.9%)
3 割増賃金の支払い(16.3%)
の順番に多かったことがわかります。
また、主な違反事項も業種ごとで異なり、それぞれ特徴があることもわかります。以下の図は、主な業種でどのような違反事項が多かったかをまとめたものです。
機械・金属業/食料品製造業では、安全基準に関する違反が多く、建設業では賃金台帳に関する違反が多いとわかります。
実習実施者の側としては、現状多くの実施者が未だ法令違反をしている事実を理解し、十分な対策を立てる必要があります。
実際にあった事例
実習実施者の法令違反について、実際にあった事例について紹介します。
いずれの事例も、厚生労働省が公表している【別紙】技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(平成31年・令和元年)より抜粋しています。
36協定の上限を超えた違法な時間外・休日労働の解消や医師による面接指導の実施等を指導した事例
概要
・自動車部品を製造する事業場において、技能実習生を含む9名の労働者に対して、36協定で定めた上限時間を超えて、月100時間を超える違法な時間外労働を行わせていた。
・月80時間を超える時間外・休日労働を行った労働者に対し、医師による面接指導を実施することとしていたが、全労働者について実施していなかった。
・技能実習生に金属のアーク溶接等の粉じん作業を日常的に行わせていたが、①粉じん作業の上限時間である1日2時間を超えて時間外労働を行わせていた。②防じんマスクを使用させていなかった、③じん肺健康診断を実施していなかった。
指導内容
1 36協定の上限時間を超えた違法な時間外労働を行わせていたため是正勧告した。
また、過重労働による健康障害防止対策として時間外・休日労働時間の削減を併せて指導した。
2 月80時間を超える時間外・休日労働を行わせた場合は、医師による面接指導の速やかな実施に努めるよう指導した。
3 粉じん作業に関して、①時間外労働を労働基準法の上限(1日2時間)以下とすること ②作業時には防じんマスクを使用させること及び ③じん肺健康診断を実施することについて是正勧告した。
情報に基づいて夜間の内偵を実施し、賃金不払残業の是正を指導した事例
概要
・縫製業の事業場について、賃金不払残業にかかる情報に基づき、10日間にわたって夜間内偵を実施し、連日午後9時頃まで作業場の証明が点灯している状況を確認した。
・後日、立入調査を実施したところ、記録上は、時間外労働や割増賃金についても法違反は認められず、事業主は記録以上の時間外労働の存在を否定した。このため、内偵により確認した事実を事業主に示して追及したところ、終業時刻後に行わせている製品の手直し作業の労働時間を把握せず、割増賃金も支払っていない事実を認めた。
・技能実習生からヒアリングしたところ、過去2年間にわたって同様の状況であったことを確認した
指導内容
1 不払いとなっていた割増賃金について支払うよう是正勧告した。
2「労働時間適正把握ガイドライン」に基づいて、労働時間を適正に把握するよう指導した。
法務省による不正行為通知
法務省は、2017年に、技能実習の適正な実施を妨げる不正行為を行ったと認められる実習実施機関に対して通知を行いました。
通知を受けた実習実施機関(団体監理型)は、183事業所で、類型別の通知件数は255件でした。
以下の表は不正行為を行った機関の数を、業種別にまとめたものです。
255件ある通知の内訳を見てみると、
1 賃金などの不払い 136件
2 偽変造文書等の講師・提供 51件
3 労働関係法令違反 24件
の順番で不正行為があったことがわかります。
不正行為の類型
各不正行為はいくつかの類型に分けられています。主なものをピックアップして簡単に説明します。
1 偽変造文書などの行使・提供
外国人の技能実習にかかる不正行為を隠すために、偽造/変造された文書や図画、あるいは虚偽の文書・図画を行使したり提供したりすること。
対象は、監理団体、実習実施機関、あっせん機関。
2 二重契約
技能実習生にかかる手当や報酬、実施機関に関し、実習生本人との間で、地方入国管理局に申請した内容と違う内容の取り決めをすること。
対象は、監理団体、実習実施機関、あっせん機関。
3 技能実習計画との齟齬
地方入国管理局へ提出した技能実習計画と、著しく内容の異なる実習を実施していること。あるいは提出した技能実習計画に基づく実習を実施していないこと。
4 名義貸し
地方入国管理局への申請内容と異なる、別の機関で技能実習をさせることです。名義を貸した機関も名義を借りた機関も、両方が不正行為の対象となる。
5 再度の不正行為
地方入国管理局から不正行為を行ったものとして指導を受けてから3年以内に再度不正行為を行うこと。
対象は、監理団体と実習実施機関等。
6 講習期間中の業務への従事
雇用契約に基づかない講習の期間中に、業務に従事させていた場合。
監理団体、実習実施機関、あっせん機関が対象。
以下の画像は、不正行為の件数を類型別に振り分けた表です。
不正行為の具体例
法務省による「不正行為」の通知の事例をいくつか取り上げ、紹介します。
技能実習計画の齟齬に関する事例
【事例1】
技能実習生が出国確認時に、帰国を強制されている旨を訴えたのをきっかけに発覚した事例。
食品製造業を営む実習実施機関が、工場において、技能実習生を食堂の掃除や皿洗い等に従事させていたことが判明した。
本来実習生は、「惣菜製造業」の技能実習を行うとして実習計画が提出されていた。
【事例2】
建設業を営む実習実施機関が、「鉄筋施工」及び「型枠施工」の技能実習を行うとして受け入れた技能実習生を、空間線量の測定、表土のはぎ取り等の除染作業に従事させていたことが判明した。
名義貸しに関する事例
技能実習生からの相談をきっかけに発覚した事例。
縫製業を営む実習実施機関2社が、一方の機関でミシンなどの設備が不足していることを理由に、3年以上に渡って他方の機関で技能実習生を働かせていた。
実習生は、「婦人子供服製造」の技能実習を行うとして受け入れられていた。
偽造文書等の行使・提供
地方入国管理局と労働基準監督署の合同調査を端緒に賃金の不払が判明した事案において、
縫製業を営む実習実施機関2社が、技能実習生に対する賃金の不払いを隠蔽する目的で、実際に支給した賃金とは異なる金額を記載した虚偽の内容の賃金台帳を地方入国管理局に提出した。
暴行・脅迫・監禁
管理団体からの報告により、建設業を営む実習実施機関の代表者が、技能実習中、作業ミスを指導する過程において、技能実習生を叱責しつつ、プラスチック製のケースを用いてその身体を殴打していたことが判明した。
労働関係法令違反
地方労働局からの通報を端緒に、食品製造業を営む実習実施機関が、技能実習生に対して、有効な時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)を締結することなく、最長で1ヶ月当たり約225時間の違法な時間外労働を行わせたことが判明した。
技能実習のお悩みは弊事務所にご相談を
厚生労働省が監督指導した実習実施者のうち、7割以上で何らかの法令違反があったというのは、衝撃的な事実です。
法令違反が発覚すれば、当然ペナルティが課されることとなります。技能実習が実施できなくなったり、事業者名を公表される恐れがあります。
これらのペナルティは、企業にとって大きな痛手となり得ます。
ペナルティを避けるためにも、関係法令を遵守しなくてはなりません。また、知らずしらずのうちに法令違反をしてしまわないよう、いつでも法律専門家に相談できる体制を整えておくことも重要です。
弊事務所には、外国人雇用に関する経験や知識が豊富な弁護士が所属しております。
技能実習でお悩みの実習実施者様に、適切なアドバイスをすることが可能です。
使用者様からのご相談は初回無料でお受け付け致します。どうぞお気軽にご相談ください。