建設業で特定技能外国人を雇用する際の流れと注意すべきポイント
近年新設された、新しい在留資格が「特定技能」です。
従来、外国人労働者を日本の企業が受け入れる場合、発展途上国への技術移転を目的とした在留資格である「技能実習」を活用することが多いです。しかし、その実態が本来の目的から乖離されていることが国内外から指摘され、国も新しい形での外国人労働者の受入を模索しています。
その一環として、新設されたのが「特定技能」の在留資格です。
特定技能外国人の受入は、建設業でも広まっており、注目されています。
この記事では、建設業を営む企業様が、特定技能外国人を雇用する際の流れやポイントについて説明します。
建設業における特定技能の受け入れ人数
出入国在留管理庁が速報値として発表したデータによると、令和4年3月末に「特定技能」の在留資格を取得して日本に在留している人は、64,730人にのぼるとされています。
下記のグラフを見るとわかるように、制度導入後から特定技能外国人の数は右肩上がりに増えているのが現状なのです。
また、業種ごとに特定技能外国人の数をまとめたデータもあります。
下記の円グラフを御覧ください。
これを見ると、建設業に携わる特定技能外国人の数は、令和4年3月末時点で6,360人と、「飲食料品製造業」「農業」「介護」に次いで4番目に多いことがわかります。
1年前の2,116人と比べると、3倍以上に増加していることもわかります。
データも示している通り、日本全体で「特定技能外国人」を受け入れる流れが生まれており、建設業においても例に漏れず受入数が順調に増えてきているのです。
建設業における特定技能と技能実習の違い
建設業を営む企業が外国人労働者を受け入れる方法として、これまで一般的だったのが「技能実習制度」を活用した方法です。
技能実習制度を活用して労働者を受け入れる場合は、外国人は「技能実習」の在留資格で入国します。
特定技能制度を活用する場合は、外国人は「特定技能」の在留資格で入国します。
それぞれの制度について簡単に説明します。
制度の目的
技能実習
日本の技術を、OJTを通じて、発展途上国の人たちに伝える。いわば、経済発展を担う人材を育てるための国際貢献制度
特定技能
日本国内で深刻化する人手不足を解消するため、十分な取組み(国内での人材確保や、生産性の工場など)をしてもなお人材確保が難しい産業分野のために、ある一定の専門的技能を持つ外国人材を受け入れる制度
こうしてみると、技能実習はあくまで「国際貢献」が目的であることがわかります。その本来の目的と、人材確保に悩む国内企業のニーズとがねじれた結果、昨今ニュースでよく目にするような技能実習に関する問題につながっていると想像できます。
期限の違い
技能実習と特定技能は、受け入れた外国人はそれぞれの制度に応じた在留資格を取得して来日します。この2つの制度では、外国人が在留できる期限に違いがあります。
技能実習
技能実習1号、2号、3号と3つの種類があり、原則として1→2→3と更新が可能(ただし、2号・3号がない職種もあります)。それぞれの可能在留期間は
1号:1年
2号:2年
3号:2年
であり、合計で5年間日本に在留できる。
特定技能
特定技能1号、2号があり、1→2と更新が可能。それぞれの可能在留期間は、
1号:5年
2号:無期限
である。
特定技能のほうが、長く働くことを前提とした制度であると理解できます。
その他にも、技能実習と特定技能には制度の違いがありますので、主なものを抜粋してまとめました。下記をご覧ください。
技能実習 | 特定技能 | |
---|---|---|
職種 | 建設だけで39作業(塗装溶接を含む) | 建築のみで22作業 |
日本語能力 | 学習初心者が多い | 在留資格取得のため、試験に合格する必要がある(N4レベル以上) |
給与 | 日本人で同じ作業をする社員と同等以上 | 日本人で同じ作業をする社員と同等以上かつ技能実習生以上 |
雇用 | 正社員として転職不可 | 正社員として転職可能 |
人数制限 | 従業員数によって変わる | 従業員数を超えてはならない(建築のみ) |
監査 | 実習機構 | 出入国在留管理庁 |
入国後講習 | 有り(160時間以上) | なし |
技能実習2号からの移行 | 優良認定かつ一時帰国が必要(※3号への移行) | 特定技能1号への移行は一時帰国は不要 |
協会などへの加入 | 監理団体型の場合は、協同組合への加入が必要 | 必要であれば登録支援機関へ加入 建築のみJACに加入 |
受け入れ可能な職種
特定技能外国人を自社で受け入れる場合、まずは「特定技能1号」の在留資格を取得してもらうことになります。
注意が必要なのが、特定技能人材が従事できる業務が限られている点です。逆に言えば、特定技能(建設)では従事させてはならない業務があるのです。
特定技能1号の在留資格を持つ外国人に任せられる業務を下記にまとめましたので、ご覧ください。
・型枠施工
・左官
・コンクリート圧送
・トンネル推進工
・建設機械施工
・鉄筋施工
・鉄筋継手
・内装仕上げ/表装・とび、建築大工
・配管
・建築板金
・保温保冷
・吹付ウレタン断熱
・海洋土木校
基本的に、上記の業務に付随する業務については従事させられることが可能です(作業前の点検や準備など)。
ただし、範囲外業務を任せすぎると、本来在留資格で認められた範囲以上の作業を行ったとみなされる可能性がありますので、注意しましょう。
企業が特定技能外国人を受け入れる要件
国内の企業が特定技能人材を受け入れる場合には、いくつかの条件をクリアする必要があります。
・建設業の許可を受ける
・国内人材を確保する
・特定技能人材に日本人従業員と同等の給与を支払う
・母国語を使用した書面を交付する
・特定技能人材を建設キャリアアップシステムに登録する
・特定技能人材を受入事業実施法人へ所属させる
・受入上限人数を超えないように、常勤職員の数とバランスを取る
・建設特定技能受入計画を作成し、認定を受ける
・建設特定技能受入計画の適正履行について確認を受ける
・国土交通省が実施する調査や指導に協力をする
これらの条件の中でも、特に建設業者が知っておくべきポイントについて説明します。
一般社団法人建設技能人材機構(通称:JAC)へ加入する
建設業は専門分野が多岐にわたるため、業界団体の数も非常に多いです。数多くの団体のなかから悪質なものを排除しつつ、適正な特定技能人材の受入を進めるために作られたのが、「一般社団法人建設技能人材機構(JAC)」です。
特定技能外国人を受け入れるためには、受入企業側が、建設業者団体の会員か、あるいはJACの賛助会員になる必要があるのです。
特定技能外国人を建設キャリアアップシステムに登録する
建設業においては、専門的な技能が必要となることが多く、それぞれの現場で経験を積んで技術を習得していく必要があります。
この技術の習得には国籍は関係なく、個々の実績や取得した資格によって、公平に判断されるべきだと認識されています。
正しくその人の評価をするために、実績や取得した資格を登録し、現場での作業を効率化したり工事の品質工場を目指すための仕組みが「建設キャリアアップシステム」です。
特定技能外国人を雇用する建設会社は、雇用した外国人をこのシステムに登録しなければなりません。
建設特定技能受入計画の認定を受ける
建設業においては、定期的に現場が変わる働き方が一般的なため、特定技能人材を受け入れる場合は特に適正な労働環境を維持・管理することが求められます。
そこで、「建設特定技能受入計画」を作成し、受け入れる外国人に配慮した労働環境を整えることを示さなくてはなりません。この計画は国土交通省へ提出し、認定を受ける必要があります。
外国籍の人が特定技能を取得するための要件
外国籍の方が、「特定技能(建設)」の在留資格を取得するためには、2つの要件があります。
それが、
1:建設分野特定技能1号評価試験に合格すること
2:日本語能力試験(JLPT)のN4レベル以上、あるいは国際交流基金日本語基礎テストのどちらかに合格すること
があります。それぞれについて説明します。
※なお、特定技能の在留資格を取得するには、「技能実習」の資格から切り替える方法などもあります。そのような場合には、これらの試験に合格しなくても良いパターンもあります。
建設分野特定技能1号評価試験の合格
この試験は、前述の一般社団法人建設技能人材機構(JAC)が運営する試験です。
それぞれの職種や、1号を取得したいのか2号を取得したいのかで、受けるべき試験が異なりますので注意してください。
(ただし、2号を取得するには試験合格だけでなく、実務経験も必要です)
この試験は、学科と実技に分かれていて、パソコンを使って回答するCBT方式を採用しています。
2つの試験でそれぞれ65%以上正解すれば、合格できます。
日本語の語学試験の合格
特定技能人材は来日して日本人に混ざって仕事をするため、最低限日本語でコミュニケーションが取れないといけません。
そのため、日本語の語学試験に合格することが求められます。下記の試験から選んで受験します。
日本語能力試験
こちらの試験は、日本国内・国外の両方で受験が可能です。
試験レベルがいくつかの段階に分かれているのが特徴で、N1(幅広い場面で使われる日本語を理解できるレベル)~N5(基本的な日本語をある程度理解できるレベル)の5段階があります。また、最も易しいのがN5で、最も難しいのがN1です。
建設業を含め、特定技能の在留資格を取得するためには、N4レベル以上に合格することが求められます。
国際交流基金日本語基礎テスト
こちらの試験も、日本国内・国外どちらでも受験が可能です。
どちらの試験でないと不利になる、ということはありませんので、試験会場の場所やスケジュールなどを見て適した試験を選ぶと良いでしょう。
この試験もいくつかのレベルに分けられており、
A1・A2(基礎段階の言語使用者) B1・B2(自立した言語使用者) C1・C2(熟達した言語使用者)という6つの段階が設定されています。
この6つのレベルのなかで最も易しいのは、A1レベルです。
特定技能の在留資格を取得するためには、A2以上のレベルに合格しなければなりません。
受入方法の流れ
特定技能の在留資格を取得する場合、いくつかのパターンが考えられます。
具体的には、
・技能実習から特定技能へ移行する場合
・留学生が技能試験と日本語能力試験を合格し特定技能へ移行する場合
・海外にいる試験合格者、元技能実習生を採用する場合
・現在日本にいる技能実習修了予定者を採用
・特定技能転職者の採用
などの方法が考えられます。それぞれについて説明します。
技能実習から特定技能への移行
現在自社で技能実習生を雇用しているのであれば、その外国人の在留資格を特定技能へ切り替える方法が考えられます。
同じ職種で技能実習→特定技能へ変更する場合は、試験などが免除される場合もあるので、手間がいくつか省けます。
また、技能検定3級の受験申し込みをしたが、病気などやむを得ない理由で受験できなかった技能実習生でも、評価調書があれば特定技能へ移行できる場合があります。
留学生が技能試験と日本語能力試験を合格し特定技能へ移行する場合
留学生など、既に日本国内に在留している外国人(技能実習生以外)を特定技能で雇用する場合は、技能試験と日本語能力試験を受験してもらい、その人が取得している在留資格を特定技能へ切り替える方法があります。
ただし、専門的な知識や実技が重要な建設業においては、全く業種に触れたことがない留学生が試験を受けて合格するケースはまだまだ少なく、あまり現実的ではないと言えます。
海外にいる試験合格者、元技能実習生を採用する場合
技能実習を修了して既に帰国した人を採用したり、海外で試験に合格した人を採用する方法です。
上記2つの方法と違って、国外にいる外国人を呼び寄せる方法なので、入国に際して渡航費などのコストがかかります。
特定技能転職者の採用
特定技能は、技能実習と違って転職が可能です。
よって、他社で経験を積んだ特定技能人材を、人材会社などを通じて自社で雇用することも可能です。もちろん、求人媒体などを使用して募集する方法もあります。
雇用後の流れ
特定技能人材を雇用した後には、いくつかの手続きをしなければなりません。
それらの手続きの中には、日本人従業員を雇用した時と同じものもあれば、外国人従業員を雇用したとき特有のもの、さらには特定技能人材を雇用したとき特有のものがあります。
それらを正確にクリアしていかないと、後々トラブルになる可能性がありますので十分注意してください。
日本人従業員を雇用したときと同じ手続き
日本人でも外国人でも、国籍を問わず実施しなければならない手続きとしては、
・社会保険の手続き
・労働保険の手続き
があります。それぞれについて説明します。
社会保険手続き
社会保険(厚生年金・健康保険)は、建設業の場合、1人以上の従業員が所属する法人、あるいは常に5人以上の従業員を雇用する事業主(個人事業主を含む)は必ず加入しなければなりません。
また、外国人が厚生年金や健康保険の制度をよく理解できておらず、「どうして給料からお金が引かれているのか」と疑問に思う可能性があります。できれば事前に制度について説明しておくと良いでしょう。
労働保険
労働保険(雇用保険・労災保険)については、建設業においては1人以上の従業員を使用する場合は必ず加入しなければなりません。
従業員の国籍は関係ありませんので、ご注意ください。
外国人従業員を雇用した場合特有の手続き
外国人労働者の場合、在留期限が来るまでに「在留期間更新の許可申請」を行わなくてはなりません。
在留期限は、外国人が所持している在留カードに記載されており、期限の3ヶ月前から申請できます。そして、期限が来てしまうまでに申請を完了させる必要があります。
在留資格の更新は、時と場合によって通常よりも時間がかかるケースもありますので、できるだけ時間に余裕を持った申請をおすすめいたします。
なお、申請後の審査中に在留期限が到来した場合は、自動的に「特例期間」にはいります。この期間中は従来通り在留し、仕事をすることができます。
特定技能人材(建設業)を雇用したとき特有のもの
特定技能人材を受け入れる際には、さらに特有の手続きが必要となります。建設業特有のものもありますので、忘れずに手続きをしなければなりません。
FITSによる受入後講習を受講/定期巡回の受入
こちらは、建設業特有の手続きとなります。
特定技能人材を受け入れてから3ヶ月以内に、FITS(国際建設技能振興機構)が実施する受入後講習を受講しなければなりません。
ただし、事前に巡回指導を受けていた場合は受講の省略が可能です。
また、FITSが1年に1回実施する巡回指導を受け入れなければなりません。巡回指導では、外国人が当初の計画通りに働いているかを確認します。
書面や担当者へのヒアリングを通して確認を行い、外国人労働者本人との面談も実施します。
国土交通省に対して受け入れ報告を行う
特定技能人材を受け入れる企業は、当該人材の在留資格「特定技能」が許可されたら、国土交通省に対して速やかに受け入れ報告を行わなくてはなりません。
この報告は、「外国人就労管理システム」からオンライン上で行います。このシステムを通じて、国土交通省だけでなくJACやFITSとも登録情報が共有されます。
入管に対して定期報告や随時報告を行う
特定技能人材を自社に受け入れる場合、当初の計画に沿って就労しているかの定期報告や、雇用契約や支援体系に変更があった場合などに随時報告を実施することを義務付けられています。
随時報告は都度行い、定期報告は年に4回実施します。それぞれ、期日から14日以内に報告書を提出します。
企業が注意すべきポイント
上記で特定技能人材を受け入れる場合に企業が注意すべきことについて記載しました。これら以外にも、注意しておくと安心なポイントもありますのでご説明します。
雇用条件を整備する
従業員数10名以下の企業では就業規則の作成は必須ではありません。
ただし、日本人労働者と特定技能人材を比べたときに、国籍や使用する言語を理由に給料や待遇に差をつけることはできません。
よって、あらかじめ社内規則を定めておく必要があります。
また、特定技能人材や技能実習生は月給制になりますので、その点を加味して就業規則を作成しなくてはなりません。
特定技能の給料水準を検討する場合には、
・3年目の日本人労働者と同等以上の給与水準である
・各地方労働局の職種別平均賃金とくらべて大幅に低くない
・技能実習から特定技能に切り替える場合は、技能実習より給料水準が低くない
という点を押さえるようにしましょう。
雇用条件の整備をする場合、「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」を検討することもできます。
こちらは、外国人労働者が働く環境を整えた事業者に向けて就労環境の整備にかかった経費の一部が助成される制度です。
弊所では、この助成金取得に向けたアドバイスや必要書類の準備などをお手伝いさせていただいております。
特定技能人材の雇用を検討しているなら弊所へご相談ください
建設業で、特定技能人材の雇用を検討されているなら、弊所へご相談ください。
一口に特定技能人材と言っても、受け入れる業種ごとに必要な手続きや準備すべき内容が異なってきます。
弊所では、専門知識の豊富な弁護士が、御社に適したアドバイスを行い手続きをお手伝いします。
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