不法就労助長罪とは?不法就労助長問題の対応実績を豊富に持つ弁護士が解説
不法就労助長罪とは?法律上の規定のポイント
不法就労助長は、罰則規定として入管法73条の2第1項に以下の通り規定されています。
次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰に処し、又はこれを併科する。 一 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者 二 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者 三 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあっせんした者 |
このように、上記の入管法73条の2第1項1号から3号の行為が不法就労助長であり、
①事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた場合(1号)
②外国人に不法就労活動をさせるために、外国人を自己の支配下に置いた場合(2号)
③業として、外国人に不法就労活動をさせる行為、または②の行為に関してあっせんした場合(3号) に成立します。
なお、このような不法就労助長行為(①から③の行為)を行い、唆し、またはこれを助けた者は、罰則以外にも別途退去強制事由(入管法24条3号の4)に該当します。
第1号:「事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた場合」
まず「事業活動に関し」とは、行為者が自ら運営し、または従業者として従事している事業の目的遂行のために必要な活動に関してという意味であり、一般家庭使用人として働かせるような場合は含まない(逐条解説536頁)とされています。
次に、不法就労活動を「させた」点について、東京高裁平成5年9月22日判決は「入管法七三条の二第一項一号が規定する『外国人に不法就労活動をさせた』とするためには、当該外国人との間で対人関係上優位な立場にあることを利用して、その外国人に対し不法就労活動を行うべく指示等の働きかけをすることが必要であると解される」と判示しています。
・・・このように「不法就労活動をさせた」とは広範に適用可能な条文の体裁をとっております。
解釈によっては、外国人雇用管理していた総務もしくは人事担当職員まで捕捉できる体裁になっていることに要注意です。
また、不法就労のさせ方は多様です。一般的には企業や個人事業主が外国人従業員を雇用するような形態を想定されますが、偽装雇用に近い請負であったり、在宅形式の業務委託であったり雇用契約形態に限りません。
さらに悪質な場合、当該外国人の在留資格範囲外であることを知りながら、当該外国人を派遣先に派遣する派遣会社をも補足できることにこの刑罰のオールマイティな捕捉可能性を指摘できます。
この点は、犯罪構成要件があいまい(どうすれば犯罪が成立するのかが一見して明らかではない)であることから罪刑法定主義(憲法31条)に反するのではないかと指摘されることもあります。
第2号:「外国人に不法就労活動をさせるために、外国人を自己の支配下に置いた場合」
「自己の支配下に置いた」とは、強度の支配従属関係がある場合だけでなく「外国人に心理的ないし経済的な影響を及ぼし、その意思を左右しうる状態に置き、自己の影響下から離脱することを困難にさせた場合も含まれる」(東京高裁判決平成5年11月11日)とされています。
ビザがない外国人を軟禁して売春させる場合など(むろん他罪の可能性もありますが)、経済的にあるいは心理的に離脱しにくくする、という程度で成立するということです。
第3号:「業として、外国人に不法就労活動をさせる行為、または2号の行為に関してあっせんした場合」
「あっせん」とは、二当事者の依頼または承諾の下に、その二当事者の間に立って、ある交渉が円滑に行われるよう仲介することを意味し(逐条解説538頁)、交渉が成立しなくても、また、あっせん行為によって報酬を受け取るか否かにかかわらず認められます。
また、「業として」、すなわち反復継続する意思をもって行ったことが要件となります。
外国人雇用ブローカーがオーバーステイなど不法滞在の外国人を支配して企業に送り込む場合等が該当します。
不法就労助長罪が厳罰化へ!具体的な改正内容とは?
改正予定の刑罰
現在の法定刑は現在の法定刑は「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」となっています。
今般法定刑を「5年以下の懲役(来年6月から拘禁刑)もしくは500万円以下の罰金」に引き上げる予定となっております(2024春時点)。
上記改正により判決の量刑相場が上がる傾向は間違いないと思われます。すなわち法定刑が上がることで検察官の求刑もあがり、判決の相場も上がることは間違いないでしょう。これは社会の価値観の変化に伴う相応の改正と思料します。
また上記改正により公訴時効が現行3年から5年に伸長します(刑事訴訟法250条1項4号)。公訴時効とは、犯罪から一定期間が経過した場合には公訴を提起できないこととする制度をいいます。
不法就労助長罪の量刑
実刑か執行猶予かについて2024段階で初犯であればほとんど執行猶予がついています(司法統計参照)。執行猶予がつく可能性があるのは、「3年以下の懲役・禁錮又は50万円以下の罰金を言い渡す場合」です(刑法25条)。
しかし、法改正後は直結しませんが傾向としては初犯でも実刑判決という場合も増加する傾向になるのは間違いありません。
また、法改正により過去の不法就労助長事案を公訴時効が切れる5年以上懸念し続けなければならないということもあるやら知れません。
不法就労助長罪による企業自体へは処罰を受ける?
不法就労助長で処罰されるのは、行為者にとどまらず、事業主も処罰される可能性があります。
不法就労助長が、法人の代表者や法人または人の代理人、使用人その他の従業者により、法人または人の業務の一環として行われた場合は、行為者に犯罪が成立するほか、当該法人または人(つまり事業主)にも犯罪が成立し、刑罰が科される場合があるのです(入管法76条の2)。
この事業主には、法人はもちろん、個人の場合(個人事業主)も含まれます。
不法就労助長罪により逮捕・勾留されたら?企業におけるリスク
不法就労助長罪が発覚した場合逮捕・勾留のリスク
刑事事件において捜査類型を大きく分けるものとして在宅事件(身体拘束がない事件)と身柄事件(身体拘束:逮捕・勾留がある事件)に大別されます。
身柄事件においては外界との接触は接見(逮捕・勾留されている被疑者と接見室にてアクリル板越しに面会すること)に限定されるために、会社の社長など要人が身柄を取られた場合には事業運営が困難になるだけでなく、風評被害により事業運営が著しく妨げられることが想定されます。
そもそも逮捕勾留の要件は「①犯罪行為の嫌疑があること」、「②住居不定であること」、「③罪証隠滅のおそれがあること」、「④逃亡の恐れがあること」に該当しているかどうかによって決まります。入管法違反事件において「①犯罪の嫌疑があること」「②住所不定であること」はあまり問題となることはありません。
要件として特に問題になるのが、「③罪証隠滅のおそれがあること」です。
いわゆる証拠隠滅のことですが証拠となりうるものを隠したり壊したり消したりすることです。
刑事事件の証拠としては大別して物証(物や書面等)と人証(人の証言)があります。
例えば不法就労助長罪において事業主が当該外国人を雇用していた物証として社会保険手続資料や賃金台帳(データ)が物証、当該外国人の業務内容を伝える同僚外国人社員の証言は人証となります。
不法就労助長罪の特徴
不法就労助長罪の特徴として、 ①被害者無き犯罪 ②利害関係人が多いという特徴があります。
①被害者がない
不法就労助長罪は被害者がいない故に誰も申告せずに捜査機関に発覚することが他の犯罪に比較して、時間がかかったり、発覚することがないことも多々あります。
また、被害者がいないゆえに犯罪の直接証拠となる物証が他の犯罪と比較して少ないことがあります。小規模事業所においては行政上の手続きを履行していない(社会保険等加入していない)賃金台帳などもない場合もあります。不法就労外国人が勤務していた事実を直接立証する資料がないことも現実的にあり得るわけです。物証が少なければそれだけ物証の罪証隠滅の恐れも減少します。このことは、物証が乏しい事件において人証の確保が重要であることを指し示します。
②利害関係人が多い
次に②利害関係人が多いという特徴については、不法就労助長罪において、不法就労している外国人が少数である場合は比較的少ないことが多いです。大きな工場や複数の拠点がある事業所において、不法就労に該当する外国人が50名から100名を超える事業所もこれまで何度も経験してきました。
社内でも不法就労に関与していた社長や担当役員、人事担当者ばかりか工場長、支店長複数の役員社員が関与している場合があります。
社外においても、従業員を紹介してきた外国人ブローカーや派遣元企業など不法就労外国人が増加するのに比例して利害関係者は増加する傾向にあります。
不法就労を行っている外国人にとっては事件発覚=強制退去のリスクがあり、不法就労助長罪に関連する社員・社外の会社、ブローカーにとっては会社存続の危機が真近に迫っている。そのような状況においてよくあることは「口裏合わせ」です。むろん関係者の供述を歪めることも証拠隠滅行為となります。
入管法違反とくに不法就労助長罪においてはその事件の特性(①被害者無き犯罪 ②利害関係人が多い)から利害関係人が多いほど類型的に口裏合わせの蓋然性が高いすなわち罪証隠滅の恐れあるとして逮捕・勾留のリスクが高まります。 利害関係人が多い事案については特にリスクが高まると考えてください。
不法就労助長問題を生まないために企業ができること
不法就労助長罪は被害者がいないという犯罪の特性上、発覚が遅くなったり、場合によっては発覚しないということもあります。しかし一度発覚してしまえば、該当する外国人にとっては退去強制(入管法24条)につながる可能性も十分にありますし、不法就労助長罪に該当する個人や企業にも罰金や懲役といった処罰が下されます。また、今後継続して外国人材を雇用する場合にもスムーズにいかない可能性もあります。
当事務所では、外国人材を活用している企業の皆様へ、外国人労務顧問サービスを提供しております。現在の就労体制が不法就労に該当していないかどうか、不法就労と認められる可能性がある場合は何を改善すればよいのか、等外国人雇用に関する相談実績をもとに、改善アドバイスと体制刷新のサポートをさせていただきます。
現在自社にて外国人雇用を行っている皆様は、まず一度自社の体制についてぜひお気軽にご相談ください。